植物と、日本の染めもの

伝統色 古典園芸
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< みどり色の謎より続く

☆染色で尊ばれた日本の「植物由来の三色」

日本染め物の三大色

日本の伝統的な染色技術。
ここでは、藍色、紅色、紫色が特に重要な役割を果たしてきました。

これらは「日本染め物の三大色」として知られています。
それぞれに、蓼藍(たであい)・紅花(べにばな)・紫根(しこん)が関係。
そして、これらは全てが植物です。
日本人と植物の深いかかわりがここでも見られます。

さて、この染め物。
これが江戸時代には、独特の発展をします
その背景は、幕府によ次々発令された奢侈禁止令。
これにより、茶色、鼠色、藍色以外の色の着用が制限されました。

では、奢侈禁止令で着物の色が制限された庶民は、どうしたか?
やはり、オシャレはしたい。
という事で、ここに染色の工夫を加えて行きました。
そうして、その三色から「四十八茶百鼠」という多様な色彩を発展させていったのです。
機織り機

四十八茶百鼠

これは江戸時代後期に、様々な茶色や灰色が流行したことを表わす言葉です。
奢侈禁止令に対して人々は、茶や黒や鼠色系統の地味な色合いに様々な変化をつけて「染め」を楽しんだんですね。

一説には、茶色系・鼠色系、藍色系で開発された染め物の色数。
これが合計で、200色以上あったと言われています。
それが、たくさんの色がありましたという事で「四十八茶百鼠」(しじゅうはっちゃひゃくねず)と表現されたのだそうです。

古代の記録から現代に至るまで、こうして日本の色彩文化は、その歴史と文化的な背景を通じて、常に変化と進化を遂げてきました。
機織り機

☆タデアイ

藍染めについて

さて、藍染めについて。
先述のように派手な色の使用が制限された江戸時代。
人々は茶色やねずみ色などの中間色だけが使われるようになりました。
そしてその内、色の微妙な違いを楽しむ文化が育ちました。

さらにこの時代には、藍色だけが特別扱い。
藍染の商いが盛んになり、やがて代表的な色として定着しました。

この染め物に使うのがタデアイ、または藍蓼(あいたで)。
これはタデ科に属する植物で、主に青色の染料として古くから利用されています。
「藍」(あい)としてもよく知られていますね。
天然の藍染めに用いられる重要な植物です。
この植物から抽出される青色の染料は、独特の深みと温かみのある色調です。
タデアイ

染料としての利用

藍染めは、布や糸に深い青色を付けるための伝統的な方法です。
また、日本だけでなく世界中で古くから行われてきました。
しかし、日本の藍染はジャパンブルーと呼ばれ、世界中で認められています。
つまり、日本の藍染がそれだけ特殊で価値のある染色という事なんです。

抽出される染料は、空気中の酸素と反応し、布などの素材に固定され色が発現します。
この過程は、染色作業が一種の芸術形式とみなされるほど繊細で複雑です。
紫染め

栽培と染料の抽出

ところで、このタデアイは比較的栽培が容易で、湿った土壌を好みます。
まず何より種から育てることができますし簡単。
そして、夏には小さな白やピンクの花を咲かせます。

また、染料を抽出するためには、葉を収穫して発酵させる必要があります。
この発酵過程を通じて、葉の中の成分が、染料へと変化します。
藍染め

藍染めの特徴

  • 独特の風合い:独特の風合いと深みが出ます。
    使用と洗濯を繰り返すことで、色が徐々に変化し、経年美が楽しめるのも特徴です。
  • 抗菌作用:天然の抗菌作用があります。
    古くから染色としてだけでなく、傷口の治療などにも用いられてきました。
  • 防虫作用:防虫効果もあるんです。
    例えば、蚊やダニ、そして蛇などが近寄らないと藍師の方から伺いました。
  • 衣類の耐久性向上:繊維に染料が絡みついて、衣類の耐久性を向上させます。
  • 環境への優しさ:天然の藍染めは、環境に優しいとされています。
    天然成分ですから、染液は土の微生物に分解されます。
    藍染め

藍染について、見やすいサイト紹介

藍染め 純藍株式会社

伝統的な藍染め|藍の情報サイト【藍】~藍のある暮らし、はじめよう。~ (japanblue-ai.jp)

☆ベニバナ

ベニバナは、キク科に属する一年生の植物です。
主に黄色や赤色の染料として、古くから利用されてます。
また、食用や薬用としても用いられる多目的な植物です。
色素は、繊維や食品の着色、美術品の製作など幅広い分野で使用されてきました。
ベニバナ

歴史

使用の歴史は、古代エジプト時代にまで遡ります。
そして、アジア、アフリカ、ヨーロッパを通じて広く栽培されてきました。

かたや日本においても、平安時代から染料として利用。
特に江戸時代にはベニバナ染めが盛んに行われました。
この時代、ベニバナは「紅花」として、衣服や装飾品を美しく彩るために重宝されました。
紅花染め

染料としての利用

ベニバナからは主に二種類の色素が抽出されます。
黄色の色素は「サフラワーイエロー」、赤色の色素は「カルタミン」。
これらの色素は水やアルコールに溶かして使用、天然の染料としての価値が高いです。

  • サフラワーイエローは、繊維や食品の着色に用いられます。比較的色あせしやすいが、独特の明るい黄色が特徴です。
  • カルタミンは、強烈な赤色を発し、布や絵の具などに利用されます。耐光性に優れ、時間が経っても色の鮮やかさを保つことができます。
    紅花染め

栽培と収穫

乾燥した気候を好み、砂質の土壌でよく成長します。

まず、種をまいてから花が咲くまで約4ヶ月かかり、花が満開になった時の朝が収穫時期です。
そして収穫された花からは手作業で種子を除去し、色素を抽出するための処理が行われます。
紅花

紅花染めについて、見やすいサイト紹介

紅花染め 株式会社新田

紅花染 | 株式会社新田 | みちのく米沢 紅花染め (nitta-yonezawa.com)

☆ムラサキ

ムラサキ(学名:Perilla frutescens)は、シソ科に属する植物です。
特にその種類の一つであるムラサキが、古くから紫色の染料として利用されてきました。

この植物から抽出される色素は、深い紫色。
衣類、絹、そして時には紙の染色に用いられています。

現代では輸入された西洋ムラサキに侵食され、日本産のムラサキが危ない状態。
そこで一部の有志が、日本産のムラサキを守るために栽培されています。
地味な見た目ですが、国産のムラサキを後世に遺したいですよね。
私もそのほんの一端に関わらせていただいてます。

ところで西洋ムラサキと国産ムラサキの違い、気になりますよね。
簡単に申しますと、国産ムラサキの色は格段に美しい紫色という事です。

そして染色として使われるのは、根の部分で「紫根」(しこん)と呼ばれています。
ところがムラサキの地上部自体は、ムラサキではありません、こんな感じで紫色は一切見られないんです。
ムラサキ

歴史と文化

ムラサキの使用は、古代日本や中国で高貴な色とされていました。
紫色は古代から王族や貴族の象徴とされ、限られた階級の人々だけがこの色を用いることが許されていました。
また、その衣服は特別な場合にのみしか身につけられませんでした。
理由は、高い地位や権力の象徴と見なされていたからです。

それと、同じ国産の紫染めでも、その土地によって違いがありました。
赤みが強いのが京紫。
それに対し、濃い青色が江戸紫。
これは、その土地で採れるムラサキの成分の違いでもあるようです。
そして江戸紫は、歌舞伎の世界でも好んで使われました。
紫染め

染料としての特性

染料は、非常に耐久性があります。
太陽光にさらされても色あせすることが少ないとされています。

しかし、紫色の染料を抽出し、衣類などに定着させる過程は複雑。
そこに、高度な技術を要求されます。

このため、他の染料に比べて手間と時間がかかるため、非常に貴重なものでした。
つまりこう言った理由で希少性があり、ひいては高貴な色とされたのです。
紫染め

染色プロセス

染色過程では、葉を収穫し乾燥させた後に、粉末状にする作業が含まれます。
そしてこの粉末を水に溶かし、アルカリ環境を作ることで色素が溶出しやすくなります。
その後、この溶液を布や糸に適用し、染色。
色の定着には、さらに後処理が必要になる場合もあります。
江戸紫

紅花染めについて、見やすいサイト紹介

紫根染め

鹿角紫根染・茜染とは | 鹿角紫根染・茜染研究会 (kazuno-murasaki.net)

ということで、日本文化に馴染みの深い植物三種からなされる染め物のお話。
それをまとめたところで、本日はここまで。
最後までお読み下すってありがとうございました。
どうぞ佳き一日を💐

< 染め物三大植物:楽しんで育てるへと続く

Ψ~ 緑の命 ~Ψ
執筆者
毎日をワクワクに変える植物教育研究家
kazuhiko
略歴
園芸の生産・流通・販売・教育と多岐にわたり都合45年勤務。
植物がもつ癒し力や、ちょっとミステリアスな植物の物語を、色んな年代の方に届けています。

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