赤実の縁起物

南天 古典園芸
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☆記事訂正12/28分

昨夜、東京の花屋さんにお勤めの絹豆腐さん(仮名)からご指摘いただきました。
2024.12.28の記事で、南天について書かれていますが、添えられた写真は「千両」になっていますよ、と。

このご指摘、記事を確認するまでもなく、ああそうだったと自分でも分かったのです。
本当は千両を書くつもりで写真をアップして、頭の中で「これで赤実の縁起物に話を拡げたら長くなるのでこれで止めておかないとな」と考えて赤実の縁起物である南天の話を書いてしまったのです。

これが、あの日アップした千両の写真。
葉の付け根に赤い実が上に向かって付くのが特徴です
千両

一方こちらは、同じ赤い実ですが、南天の写真。
この南天の説明については28日の「正月の準備開始」という記事に書いておりますので、そちらをご覧ください。
そしてごらんのとおり南天は、とにかく実が多い。
赤い実はまとまって、房になって垂れます。
南天

あの日の記事はそのまま(訂正箇所のみ追加表記に留めて)に、今日ここで訂正させていただきます。
気になる方はどうぞご覧ください。
< 正月飾り最適日は、今日12月28日!

ということで折角ですから、私はあの時書き拡げようかなと一瞬思った赤実の縁起物について、今日はちょいと書いておこうと思います。
では以下。

☆赤実の縁起物

時代背景

江戸時代の話です。
徳川幕府がもたらした平安の世で、侍たちは刀と同じように刃物であるハサミを片手に、将軍が好んだ園芸を嗜むようになります。
その中でさらに、言葉遊びの文化が花開いた時代でもありましたから、その要素も加わって。
更に神道や仏教から縁起物という要素も混じりこんで行きました。

そんな流れの中で、魔除けや繁栄の象徴とされる「赤色」の実をつける植物達が人気を集めました。
それが、南天、万両、千両、百両、十両、一両という六種類の植物です。
千両

九州の私の実家にも千両と万両は植えられていましたし、こちらはなじみ深い。
南天は山に普通にありましたし、よく実をとって投げ合って遊んでいました。
ところが、百両~一両は良く分らない。

頑固ジジイのKさん

そんな私にこれらのありがたいお話をして下さったのは、江戸園芸で樹木に詳しかったKさんでした。
もう30年も前になります。
当時76歳だったKさんは江戸っ子気質で、いきなり「ばかやろう、百両も知らねぇのか。江戸時代にはな、百両一株で新築の家一軒が建つこともあったんだぞ!」いきなり馬鹿野郎もないですが、これがKさんの話の始まりの決まり文句でしたから、嬉しかったですねぇ。

このばかやろうの後には、必ず昔の面白い話が来ると決まってました。
良い時代でした、今の堅苦しい時代では考えられません。
しかし、百両の鉢植え一つ、うまく作れば家一軒の値段で取引されたんですって。
ね、江戸園芸文化って、凄いですよね。
千両

赤実の縁起物

そこで江戸っ子は、赤い実の付く植物を自分で育てたり、売り買いして家に飾ったりして楽しんだりしたそうです。
特に正月は(今と違って旧暦ですから、今年でいえば1月29日~)この縁起物に人気が集まったそうです。
その一群が、南天、万両、千両、百両、十両、一両。
これらはどれか一つでも良いのですが、どうせなら全部揃えたいという気持ちになるのコレクター魂というのは昔もあったようで。
宝船

南天

南天については間違って12/28の正月の準備開始に書きましたので割愛。
もう一度ここにリンクを貼るだけにしておきます。
そして写真は間違いなく、これぞ南天。
ちょい足しのご説明としては、夏に白花、冬に赤実と紅白で実におめでたい。
木の大きさは、2~3mにもなりましょうか。
南天

万両

こちらは木の高さが50cm~1mくらいでしょうか。
南天ほどにはいかなくても、赤い実がたわわに葉の下に実る。
赤実が沢山あるというので大金に見立てて、万両の名。

金持ちになりたいというのは今も昔も変わらない我々の願い。
しかし実際にそうはいかないので、せめて豪勢に飾ろうというので満了人気は高かった!
これはヤブコウジ科の植物で、本来の名前はヤブタチバナ。
万両

千両

万両は写真の通り大金を葉の下に隠す。
まるで土蔵の中の金子と同じ。
それじゃしみったれていけねぇやと、どうだい俺んとこにゃこんなに金があるんだぞと見せつけるように葉の上に赤実をつけるのが、千両。
つまり私が28日に間違って投稿してたやつ。

万両より実は少ないが、お天道様にその実をさらす、これは気っ風が良いと江戸っ子気質の気持ちを掴んだ、これが千両!
こちらはセンリョウ科で正式名称クササンゴ。
木の大きさは万両と同じぐらいなので、切り枝として売られることも多かったそうで。
現代では、ほとんどが切り枝販売ではなかろうかと思うのですが、全国の花屋さん、いかがでしょう??
千両

百両

続いてのご紹介が百両。
これは万両や千両と比べると、木の高さが20cmほど低く低いもので20㎝、大きいものでも80㎝。
この小ささが、千両より安い百両命名の理由だと思われる、、多分ね。

そしてこの小ささが、鉢物に仕立てた時収まりが良いというので、家一軒の値段で取引されたこともあったのでしょう。
間違ってはならないのは、百両が常にそんな高値で取引したわけではないという事。
たまたま高値が出たという、宝くじに似た出来事もあったのでしょう。
そうでないと、他の赤実の縁起物が作られる訳はありませんから。

ヤブコウジ科で、正式名称はカラタチバナ。
百両

十両

これは百両よりさらに低木となる高さ10~30cm。
赤い実がチラチラと付くので、万両から百両まであるのだから、十両にしよう!と、江戸に有った植木村の商売人が命名したのではなかろうかと私は考えています。
ヤブコウジ科で、正式名称はヤブコウジ。

見た目がひっそりしていて、これはこれで大変かわいいものです。
さて、ここまで揃えたら、一両だってほしくなる。
それが江戸園芸の言葉遊びの面白さと相まって、、、。
十両

一両

一両の条件は、十両よりも低い木でなければならない。
しかも同じような時期に赤い実をつける植物だと、江戸植木村にお勤めだった職人さんたちは考えたのではなかろうかと思います。
私だったら、そうしますから。

一両なので、十両以上を越えてはならないのです。
そのような過程を経て決まったのが、この一両だったのではないでしょうか?

アカネ科、正式名称アリドオシ。
アリドオシは地面を這う性質で(匍匐性ほふくせい)、赤い実を付けます。
一両と呼ばれる条件に、ぴったり一致。

そしてこのアリドオシには、茎に鋭いトゲが付いていまして、これが、茎を伝い歩く蟻だって貫き通すというので、蟻通しの名が付いています。
さてこのアリドオシ。
南天は別格(難を転じるという運命操作)ですが、万両以下はお金をはじめとする財産の象徴と縁起担ぎです。
このことから、万両から十両まで揃えただけではまだいけない。
これらのお金がやがて使い続けてスッカラカンになるかもしれないというなんて真っ平御免ということで、この一両を添えることが活きてきます。

一両から万両まで全て揃えて「有り通し」ということで、一両までしっかり揃えれば、その家の財産は減ることが無いというめでたいお話。
一両
こういう事を考えながら12/28、いかんいかん話の広げ過ぎという一瞬の迷いが写真掲載の間違いに至ったという、実に長い言い訳めいた本日の記事でありました。
という事でここまで。
最後までお読み下すってありがとうございました。
そしてまだ松の内。
正月気分を味わいつつ、どうぞ佳き一日をお過ごしくださいませ💐😊

Ψ~ 緑の命 ~Ψ
執筆者
毎日をワクワクに変える植物教育研究家
kazuhiko
略歴
園芸の生産・流通・販売・教育と多岐にわたり都合45年勤務。
植物がもつ癒し力や、ちょっとミステリアスな植物の物語を、色んな年代の方に届けています。

現代は、デジタル時代。毎秒おしよせつづける情報に、私たちの脳は、年中無休の疲れ気味。 そこで身近な植物を使った、効果絶大わずか5分の、カンタンな心身癒しをご提案中♪
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