☆菖蒲に八つ橋
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皐月の四枚札
一昨日より、旧暦では五月に入っております。
そこで、花歌留多(花札)の皐月(五月)の札の図柄と意味をご紹介。
皐月(さつき)の札はこの四枚。
ここに描かれているのは、菖蒲(しょうぶ)と八つ橋と水です。
では、それぞれにどういう意味合いが含まれているのかを見て行きましょう。
カス札
花札全四十八枚中、二十四枚がカス札。
それで五月のカス札がこちらです。
菖蒲(しょうぶ)。
混同しやすい植物に、あやめ・菖蒲・花菖蒲・カキツバタがあります。
これは明治以降きちんと区別が付けられていますが、江戸時代あたりまでは似ているので混同されがちでした。
あやめ・菖蒲・花菖蒲・カキツバタの違い
折角なので、それらの見分け方について書いておくことにします。
アヤメ
陸地で育つのがアヤメです。葉っぱの中心の脈と呼ばれる軸が盛り上がっていません。
花の咲く時期は、カキツバタより早めの四月下旬~五月初旬。
花びらの根元に、綾の目模様が入ることから文目(あやめ)と呼ばれるようになりました。
綾の目は織物の紋様で、斜文線とも申します。
それで文目という文字も使われるようになりました、余談ですが。
菖蒲
湿地や沼や川辺を好みます。葉っぱの脈が高く盛り上がっていて、葉の先は尖って、剣のよう。
花の時期は五月から七月ですが目立たない花です。
葉っぱ全体に良い香りがあり、形も剣に似ていることから、奈良時代より邪気払いや男の子にとって縁起が良い植物とされてきました。
菖蒲は、尚武や勝負に通じるので、武家にも親しまれ、魔除けとして飾られたり風呂に入れられたりしました。
現在では、葉菖蒲とも呼ばれております。
花菖蒲
日当たりの良い湿地を好みます。葉っぱが葉菖蒲に似ているので、花菖蒲という名が付けられました。
花の時期は旧暦の基準地近畿地方で、新暦の六月。
花びらの付け根が黄色なのも特徴の一つです。
江戸時代の品種改良で、多種多様な品種が生み出されています。
カキツバタ(燕子花)
日当たりの良い湿地を好むのは花菖蒲と同じです。葉っぱはアヤメと同じで脈が目立ちません。
花の時期は近畿地方では、新暦の五月初旬から中旬ですから、旧暦に直しますと先月の卯月の頃の花となります。
一番外側の花びらの付け根の奥が、淡い黄色というのも特徴であります。
混同の歴史
ただこのように、見た目が大変似ておりますので一緒くたにして「菖蒲」と呼ばれたり「アヤメ」と呼ばれたりしておりました。
前にも申しましたが、これがはっきり区別されたのは明治になってからです。
ですが現在でも、この混同はけっこうみられるのです。
試しに、アヤメの開花と検索されてみてください。
アヤメといいつつ結構な割合で花菖蒲が出て参りますので。
そういう事実があるという事を、ちょいと頭の片隅に留め置いて、次へ参りましょう。
五月の短冊札
花札全四十八枚中、十枚が短冊札。
五月にも一枚、この短冊札があります。
それがこちら。
前にも申しましたが、花札で言うタンとは短冊。
和歌をしたためるためのものであります。
さて、歌に詠まれた菖蒲(混同)を調べてみましょうか。
五月の種札
花札全四十八枚の中に、動物や特殊な図が描かれた重要な札が九枚。
これを種札と申します。
五月の種札は、菖蒲に八つ橋(やつはし)です。
この図柄を見ますと、この植物は水辺に咲いております。
つまり先ほどの分類では、混同されていた菖蒲から、アヤメは除外されますよね。
そして湿地は好むけれど、花が目立たず花期も前後の月にまたがる葉菖蒲も除外。
残るは花菖蒲とカキツバタです。
皐月は、今年で言えば新暦の5月27日~6月24日までとなります。
そこにピッタリ当てはまるのは花菖蒲。
カキツバタは頑張っても皐月の初めまで持つか持たぬかというところですから。
ところが、、、です。
次に参りましょう。
八つ橋
皐月の種札には、菖蒲と一緒に八つ橋と水が描かれております。
これは時期を考えなければ、花菖蒲でもカキツバタでも構いません、そんな図柄です。
そこでヒントとなるのが八つ橋です。
八つ橋とは、池や湿地の上に架けられた折れ曲がった橋の事です。
杭を打ち、その上にジグザクに板を渡した橋の事です。
この文化が生まれたのは平安時代。
八つ橋文化の中心は、京都です。
そして先ほどの短冊。
では、この花に掛かる、そして八つ橋が出てくる有名な和歌。
そこに答えがあるようです。
何と言っても花札は、季節と花と自然風景と和歌が織り込まれた大変雅なものですので。
五月札に描かれた菖蒲
伊勢物語の和歌
伊勢物語の東下り。
そこにこんな和歌があります。
唐衣 着つつなれにし つましあれば はるばるきぬる 旅をしぞ思ふ
からころも きつつなれにし つましあれば はるばるきぬる たびをしぞおもふ
これは平安の歌人、藤原野業平が京都を離れ、今の愛知県知立市にある無量壽寺で詠んだもの。
唐衣とは、着るに架かる枕詞です。きぬるも、着ると来るの掛詞であります。
そしてこの和歌の意味は、「京の都に衣のように馴染んだ妻がいる、それを思うとはるか遠くまで離れてしまったものよと寂しさが身に染みる」という感じでしょうか。
そしてこの和歌の各区の頭の文字を並べると「か・き・つ・は・た」となる折句になっています。
舞台の無量壽寺には、池に架かる八つ橋、そして卯月に咲くカキツバタが有名。
無量壽寺の山号は、八橋山。
現在でもお寺の有る知立市の市花はカキツバタなのです。
この有名な和歌が、今の形での花札が成立した江戸時代に皐月の種札に描き込まれたという可能性はかなり高いと私は見ておりますが、いかがでしょうか?
果たして、花札の菖蒲の正体は?
こうしてみると、カキツバタが最有力候補に思えてきます。
ただ、たった一点合点がいかないのは、花の時期です。
今、知立市役所観光課の許可が取れたので載せますが、こちらが今年の知立市カキツバタ祭りのポスターです。
旧暦五月になる前に終了しております。
そしてこちらが、花菖蒲まつり。
まさに旧暦五月に合致。
旧暦の基準地、近畿地方では、旧暦の五月にはカキツバタが咲き終わっているのです。
という事は、五月の種札に描かれた菖蒲は、カキツバタと花菖蒲の混同から起こった図柄という事でしょうね。
意味はカキツバタ。
でも描かれている花は、実は花菖蒲。
いちいち細けぇこたぁ気にすんない!と江戸っ子の声が聞こえてきましたので、ここら当たりで筆を止めましょう、それが良い。
花札五月の言葉遊び
大変長くなって参りましたので手短に。
さてこの五月の花札にある言葉遊びは何でしょうか?
ヒントは「つ」
答えはいつも通り、最後に。
☆皐月
皐月は、早苗を田んぼに植える時期という早月から転じた呼び名と言われております。
皐月の「皐」は、広く浅い池や沼といった意味ですから、これも田んぼを思い起こさせますよね。
読みは「さつき」
「さ」と「つき」から成る言葉ですが、分からないのは、「さ」ですよね。
こちらは、三月札でお話ししました桜の「さ」と同じです。
そう、田んぼの神様の意味でしたよね。
この月の別名は、橘月とか雨月。
月不見月とも言ったりします。
新緑が多く雨も多くなり、一層植物は育ち日照時間が短くなる頃。
種札に水が描かれているのも、こういう事も関係しているのかもしれません。
さてそういう事で先ほどの言葉遊びですが。
答えは、八つ橋の「つ」と、カキツバタで「つ」つながりという事でありました。
ほらね、花菖蒲とこんがらがってると最後に添えて。
本日はここまで。
最後までお読み下すってありがとうございました。
どうぞ佳き一日をお過ごしくださいませ💐😊