☆工事の風景
私がこの地に引っ越してきた時、ご近所さんで初めて言葉を交わしたおばあさんがおりました。
一軒家に三本の大きな木があって、庭には花がたくさん植えられていました。
森への散歩。
それが私の日課でもあり健康法でもあり、貴重な観察の場でもあり。
そこからの帰りに、おばあさんをお見かけしたのでご挨拶したら、明るく返してくださいました。
お子さんたちは巣立ち、それぞれが遠くで暮らし。
御主人は10年前に他界され、今ではこの家と主人が植えた庭木のお世話が生きがいと笑う素敵なおばあさんでした。
冬。
雪が一晩で20cm以上積もるだなんてことは良くある事で。
そんなふうに積もった朝は、私は5時から外の雪ハネと決めていて、おおよそ30分、自宅周囲と自宅前の歩道の除雪をします。
それからおばあさんちの玄関から歩道までの短い距離も雪ハネ。
一人暮らしと聞いては、放っておけませんよね。
それ以降もおばあさんと私は、挨拶を交わす仲になり、たまに長話をしたり。
とても良い方でした。
ところがこの春、雪解けしてから一度も会うことなく、あれほど素敵だった庭も荒れ始め。
一ヶ月前から古い車庫の解体が始まり、ご自宅の解体も始まりました。
それから最後には、大きな重機がきて、おばあさんが大切にされていたご主人との思い出の木を折り、抜き取り泥と一緒にトラックで運ばれて行きました。
そこから数日で、おばあさんの家は完全に跡形もなく消えました。
そして昨日。
別のご近所さんともお話したのですが、そのおばあさんがどうなったのかは誰も分からないそうです。
ただ遠方に二人、子供さんがいらっしゃって、そこから依頼された解体業者さんでしょうねと言う話になりました。
今朝の森散歩の行き帰り。
おばあさんの家があった場所に立ってみました。
ご主人とおばあさんの思い出の木の根だけが、哀しくそこに見えていました。