☆日本語としての「色」の歴史
・青野菜青信号の謎
誰もが一度は浮かぶ疑問の一つに、本来「緑色」の物を「青」と表現するのはなぜ?と言うのがあります。
これが今でもずっと不思議で。
それで調べたことがあったんです。
すると元々日本には、色に関しては4つの表現しかなかったことが分かりました。
・基本の四色
日本で最も古い色の名称は、古事記(712年)や日本書紀(720年)に記されているそうです。
そこにたった、4色。
それが、白と黒と赤と青。
この4色が特別な理由として、まず、「い」を付けたときに形容詞になる色が、この4色しかないという事です。
白い、黒い、赤い、青い。
※ほかに「茶色い」や「黄色い」がありますが、こちらには「色」が付くので除外されます。
さらに、この4色は「対」になって使われることがあります。
別の表現で言うと、「組」になっている。
例えば、白黒をつけるとか、紅白餅とか、鬼にも赤と青が居ますね。
また、「同の字点」を付けられる色もこの4色です。
白々、黒々、赤々、青々。
この形容詞化や対の意味、そして同の字点が付けられるという事。
これらが、この4色だけが古くから使われてきた証です。
・古代日本語の色は、概念的
ところが、古代日本語での色の基本形4色が表すのは、単に色だけではないんです。
例えば、黒は「黒し」から「暗し」に変化しましたし。
赤は「赤し」で、「明るし」になりました。
つまり赤と黒で、明暗という「対」になります。
また、白は「白し」から「著し」。
これは少し分かりづらいですよね。
「著し」は「しるし」と読みます。
著すと書けばアラワスと読みますが、「著し」た人を、著者といいますよね。
また「著しい」はイチジルシイと読みます。
ここで共通している意味は、あらわれる。目立つ。あきらか。
つまり、白は「明確ではっきりしている」の意味です。
だから、明白なんて言葉もありますよね。
そしてもう一つ、青。
これは「青し」から「淡し」に変化しました。
なのでボンヤリと存在しているもの。
ここから、未成熟という意味にも使われていて、青臭いだなんて言ったりします。
つまり、白と青で濃淡という「対」を成しているという事です。
それと、古代日本での「赤」は、濃い赤、オレンジ、黄色を含んでいました。
「白」には、明るい黄色あたりも含みました。
「青」は、現在の、紫・緑・灰色までも含んでいたのです。
☆緑の誕生
・「みどり」の誕生
このように、かつて日本人は、青と緑を「青い」という一つの色と考えていました。
そこから、「みどり」が分かれて行ったのは、和歌だと言う研究がされています。
※記事名:漢語訓読と和歌表現ーー〈碧空〉は、なぜ「あをきそら」ではないのか
著者:長沼英二氏
資料データ:国立国会図書館請求記号Z12-83国立国会図書館書誌ID9285163
それによると、「青(あを)」と「緑(みどり)」の区別され始めた時期。
これが平安時代末期~鎌倉時代(西暦1100年頃)とされています。
大陸から「碧空」という言葉が来た時「青い空(あをきそら)」との訳に抵抗があった。
そのため、「みどりのそら」という表現が生まれたというのです。
そこで言われている、一番古いと思われる和歌がこちら。
「久かたの みどりの空の くもまより こゑもほのかに かへるかりがね」海人手古良集八
ここらから平安文学で「みどりの空」の表現が定着というのが定説になっています。
ただし、ここでの「みどり」は色ではありません。
青が含んでいた「みどり」と言う表現。
そしてさらに、瑞々しい(みずみずしい)という意味合いが大きいようです。
この「瑞々しさ」は現在でも、みどり児とか、みどりの黒髪として残っています。
また、その意味から転じて、新芽の色の意味「緑」に定着していったようです。
・「緑色」の誕生
しかし、江戸時代まではなんとなく青(あを)と緑は表現として混在していたみたいです。
そう言えば、明治生まれの私の祖母は、緑という表現はあまりしていなかったですね。
今で言う、青も緑もどちらとも「あを」言っておりましてっけ。
それで調べてみました。
青菜も嬰児(みどり児)も昔からあった。
しかし、青信号の始まりは、私でも特定しやすいですから。
それで、日本初自動式信号機が設置されたのが1930年(昭和5年)3月23日。
場所は、東京に東京市の日比谷交差点です。
ということはこの時点で。
まだ、青と緑の表現が混在していて違和感がなかったという事ですよね。
そしてどうも、「緑」が色として広く定着して行ったのは、第二次世界大戦後です。
西暦で言うと1945年9月あたりからだそうです。
さらに、先述のレイチェル・カーソンが沈黙の春を出版した1962年。
そこから緑色に、さらに自然や環境といった意味合いが強く重なって行きました。
☆まとめ
このように、緑色と言うのは、ある意味比較的新しい色と言っても良いのかもしれません。
ただ、当然古くからそこに在った色でありますし、人の視覚で一番敏感に感じる色です。
あまりにも当然すぎて、空気や水のように意識しなくてもよかったのかもしれませんね。
そして、文明が発達し、人々が少しずつ自然と切り離されて行きはじめた時代。
そのあたりから、緑色が緑色として強く意識されるようになったというのは、とても深い意味があると思うのです。
という訳で本日はここまで。
最後までお読み下すってありがとうございました。
どうぞ佳い一日を💐