神秘的な大久保鋏(おおくぼ ばさみ)

大久保バサミ 古典園芸
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☆謎に包まれた命名

昨日、菜切り庖丁とその研ぎ師さんの話をしましたので、今日はその流れで、植物のお世話の時に使う鋏(ハサミ)についてお話させていただきますね。
では、参ります✂✂✂

・馴染むハサミと馴染まないハサミがあるんです

国内の園芸で、古くから使われているハサミの一種に「大久保バサミ」と言うのがあります。
見かけたり、愛用されている方も多いんじゃないでしょうか。
私の愛用の一丁は、こちら。
大久保バサミ

とても手に馴染んでいて、今では替えが効かないほどに気に入ってます。
昔は、「ハサミを手に持って、ピタッと来る奴が自分の道具になる奴だ。」なんて言われましてね。
もう新品であっても、自分の手に収まりが良いのが一番という訳です。
少々性能が劣ったって、まずは手に収まりが良い事が大事。

と言ったって、最初のころはどれだってピタッと来るようで来ないようで、それは困ったものでした。

そんなわけで。
適当に、ピタッと来ただろうなんて言うハサミを使っていたら、いつの間にか使い勝手が悪くなる。
どうにも指が痛くなったりする。
そうこうするうち、時を重ねて、はは~んと分かってくるようになるから不思議なものです。

・大久保バサミの謎

それでまだ私の周囲に、古い時代の方が大勢残っていた頃の話。

何でも気になるのが私の性分。
そこで、このハサミに「大久保」と名が付く理由が気になりだしたんです。
それで尋ねても、そんなどうでも良い事だと、実は誰もご存じない。
いやそれじゃ良くない、命名は名付けてそのものに命を宿す行為なんだからきっと意味がある。

なんと申しましても、古くから愛用され続けているお道具に、キラキラネームってないんですから。
きっと深い意味が込められてる。

そう信じた私は当時、30年ぐらい前だったでしょうか。
調べたんです。
そうしたら、、、ここは失念したんですが、、こういう記述をついに発見したんですよね。

江戸時代の天下のご意見番と言われた大久保彦左衛門。
戦国時代から江戸時代にかけて活躍した武将ですね。
かの徳川家康にも物おじせずに進言したというので「天下のご意見番」
ここが関係していると書いてあったんです。

☆大久保彦左衛門と植木職人のエピソード

これは昔、こう書いてある書物を見たのです。
書物と言っても、雑誌の類だったのかもしれません。
ただ、活字であったことは間違いありません。
その話とは、大まかに申しますと、こうです。

江戸時代は、戦乱も収まり天下泰平となった。
そして、徳川三代と言われる家康・秀忠・家光の三代将軍は、花を好んだ。
そこで献上品として、園芸も発達。
当然、武家屋敷の庭も手入れが一層盛んになった。

ある日、植木職人が武家屋敷の木をハサミで整えていると、そこの主にハサミの音を褒められた。
その主と言うのが、大久保忠教、つまり大久保彦左衛門その人。
徳川幕府創立の立役者でありながら、自らの出世よりは路頭に迷う浪人の生活に心を割いたその生きざまは、多くの武士たちの心を打ち、義侠の士と慕われていたと言います。
その大久保様にお褒め頂いた庭木バサミと言うので、その型を大久保バサミと称し、大人気となって現代まで続いている。

とまぁこんな話でした。

☆大久保バサミの各部名称

その褒められたハサミの音色と言うのが、この仕組み。
それを説明する前に、各部分の名前をこの際紹介しておきましょう
大久保バサミ
まずは、刃。
刃の合わさった先端を「裏先」
そして、刃の切れる部分を「切刃」
更に、刃の合わさる部分を「裏」

そしてその少し下、二つの刃を留めている丸い部分を「カシメ」
そのカシメが打ち込んである所を「表の平」
表の平の裏側、擦れ合う部分を「裏の平」
大久保バサミ

更にその下、円くなって手を入れ握る輪の部分が、文字通り「輪」
輪と輪の間の涙型の空間を「ふところ」
ふところの一番カシメ側の直角になった金属の部分を「アゴ」
そして、輪同士がぶつかる所が「接点」

こう呼ぶんです。
大久保バサミの場合は、です。
大久保バサミ

☆大久保バサミ:語源のミステリー

、、、と、このようにして私が長年信じ続けていた大久保バサミの語源。
ところがこのエピソード、いまでは全くどこにも見かけなくなってます。
一体何だったのでしょう。

それどころか、大久保バサミの語源は不明となっていてですね、どうにも不思議なことになってます。

まぁ、私が大久保彦左衛門の語源を見たのは30年も前の話。
こうして現代でインターネットの発達し、各所の知識が集められ検証され資料も閲覧しやすい時代です。
ですのでやはり正確なところは、大久保バサミという名前の語源は不明なのでしょうね。

でもかくにも、仮にも大久保。
命名が日本であるのは間違いありませんね。
絶対にそこに意味がある。
だからどなたか私の命が終えるまでに調べてお教え願いませんか?

それまではひそかに、大久保彦左衛門屋敷発祥説をこっそり息をひそめて信じていようと思います。
大久保バサミ

☆大久保バサミの音色

さてそこで、大久保バサミの音色についてです。

大久保バサミを開け閉じすると、輪の接点がぶつかりますね。
ここです、この部分。
大久保バサミ

その度、チンチンチンと涼やかな音がするんですね。
これが、仕事をするうえでどうにも調子が取れて良いもんなんです。
こう言うところに、江戸の時代から昭和の終わりまで愛され続けた大久保バサミの魅力があるんでしょうね。

私も、今でも愛用は大久保バサミなんですよ。

☆今の時代のハサミと、心の余裕の関係

今の時代は、ハサミもたいへんおしゃれになりましたし、切れ味も良いものが多い。
シャープナーなんて言いましてね、シュッと引くと切れ味がまた新しくなるなんて便利なものもありまして

それに比べて大久保バサミは、使い方が下手だとすぐに切れが悪くなるんです。
そう。
文字通り○○(ポリコレ対策)とハサミは使いようで切れるなんて言いますでしょ。
使いようが大切なんですね。

だから上手な切り方を手で覚えるようになる。
また、研ぎ方も覚えるようになる。
これが大事で、こういうことを通してお道具が自分の体の一部になっていくんですね。

最近のハサミは、切れ味鋭く音も静かでお上品。
切りようが悪くったって切れる。
それは大変便利なんですが、どうにも私の性に合いません。
大久保バサミ

ということで。
長くなりました。
最後までお読み下すってありがとうございました。
どうぞ今日も佳い一日でありますように💐

Ψ~ 緑の命 ~Ψ
執筆者
毎日をワクワクに変える植物教育研究家
kazuhiko
略歴
園芸の生産・流通・販売・教育と多岐にわたり都合45年勤務。
植物がもつ癒し力や、ちょっとミステリアスな植物の物語を、色んな年代の方に届けています。

現代は、デジタル時代。毎秒おしよせつづける情報に、私たちの脳は、年中無休の疲れ気味。 そこで身近な植物を使った、効果絶大わずか5分の、カンタンな心身癒しをご提案中♪
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